【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)に対し、トランプ政権と金融市場の利下げ圧力が強まっている。物価上昇率の鈍化でトランプ大統領は1%の利下げを要求し始めた。パウエル議長は1日の記者会見で早期の利下げをけん制したが、市場は催促相場の色彩を強める。物価の伸び悩みが続けば圧力はさらに強まりかねず、FRBは難しいかじ取りを迫られそうだ。
「政策金利が1%低ければ、米経済はロケットのように上昇するだろう」。FRBが金融政策を話し合う米連邦公開市場委員会(FOMC)を始めた4月30日、トランプ氏は見計らったようにツイッターで露骨に利下げ圧力をかけてみせた。
1日、政策金利の据え置きを決めたパウエル議長は、記者会見で「経済成長を維持することが我々の使命だ。短期的な政治の動きを考慮することはない」と、中央銀行の独立性を強調した。ただ、トランプ氏は4月、空席が2つあるFRBの理事ポストに友人や側近を送り込む異例の人事案を公表。20年の大統領選を前に、金融緩和に転じるよう実力行使に動く。
「現時点では、利上げ、利下げのどちらかに政策を動かす強い必要性があるとはみていない」。それでもパウエル議長は1日、早期の利下げをひとまず否定してみせた。
実際、米経済は底堅い。1~3月の米経済成長率は3.2%に高まり、失業率も3%台と半世紀ぶりの水準まで一時は下がった。低金利政策が長引いて、全米の不動産価格指数は金融危機前のピーク(07年8月)を3割も上回る水準だ。FRBは資産バブルにも目配りが必要な局面で、FOMC内には「19年、20年とも1回ずつの利上げが適切だ」(フィラデルフィア連銀のハーカー総裁)との声が残っている。
ただ、FRBの利上げ再開は極めて難しくなってきた。FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率は、3月に前年同月比1.5%まで減速した。石油価格の低下が一因だが、エネルギーと食品を除くコアでみても1.6%に鈍化。目標の2%を下回り続けており、パウエル議長も「コアの減速は想定外だ」と認めざるをえなかった。
ホワイトハウスは「物価停滞でFRBの利下げに道が開ける」(クドロー国家経済会議委員長)と断じる。パウエル議長は「物価の下振れは一時的で、雇用拡大によってインフレ率も2%に戻る」と強調するが、物価上昇率が2%を下回り続ければ「金融政策面で考慮する」と踏み込んだ。
先物市場は既に6割の確率で「FRBは年内に利下げに転じる」と読む。パウエル氏が早期の利下げ観測を否定すると、ダウ工業株30種平均は記者会見の開始時から200ドルほど下げた。1日の終値は前日比162ドル安の2万6430ドルだった。金融緩和を期待する市場の「催促相場」にFRBは振り回される。
米経済は微妙な局面だ。米中の貿易戦争を巡って「両国の協議が成功裏に終われば、企業の景況感にはプラスに働く」(パウエル議長)。ただ、FRBがかじ取りを誤って景気が失速すれば、パウエル氏の続投は難しくなる。組織防衛を意識するFRBは、政権との摩擦を避けたいのが本音だ。
FRBは1日、民間銀行の超過準備預金に適用する付利金利を、2.40%から2.35%に下げた。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の実効レートが誘導目標(2.25~2.50%)の上限に近づいていたことが理由だが、FRBが金利上昇に過敏になっていることの証左だ。
中国などの景気減速は、FRBの利上げも一因だ。米国を除く世界のドル建て債務(非銀行部門)は10年間で1.9倍に膨張した。基軸通貨ドルによる「FRB経済圏」は世界中に広がり、緩和縮小の影響は想定以上に大きい。米景気に底堅さが残る間に、利上げ停止で海外景気の持ち直しをじっと待つ。パウエル氏は1日の記者会見でも「金融政策は忍耐強く様子見する」と繰り返した。
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https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44406710S9A500C1EA2000/
2019-05-02 12:36:00Z
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